鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

調剤薬局は病名を聞かないで欲しいという話

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二日ほど前から喉が痛くて、耳も少し痛く、ついでに以前から鼻も詰まるので、こりゃ耳鼻科事案だなー、と思って行ってきた。

喉と耳と鼻と、顔面にある穴という穴をこじ開けられ、光をあてられ、覗かれて、「喉は扁桃炎とナントカ炎、鼻はアレルギーの気配があって、耳は外耳炎になってますねー。」とテキパキ言われて、お決まりのネブライザーをして、処方箋を出されて終わり。

処方箋を近所の調剤薬局に持ち込んで、暫く待って、薬剤師さんが薬を持ってきた。

薬剤師さんは処方箋と僕の顔を見比べながら一言、
「ええと……風邪をひかれましたか?」

以前からこの質問がとても苦手なのだ。

まず、この質問にキチンと答えると「扁桃炎と外耳炎、鼻炎はおそらくアレルギー性で、それからもうひとつ、あまり聞き取れなかった喉の症状があります」となる。
率直にいって、煩わしい。正確に答えようとすると、とんでもないことになる。

次に、この質問は何だか僕を不安にさせる。
相手はプロの薬剤師だ。
それが、僕の顔と処方箋を見比べながら、「風邪ですか?」と聞く。
何となく、「風邪にしては薬の量が多いな」「風邪のわりに元気そうだな」なんて、いぶかしがってるんじゃないかと気掛かりになる。
もしかすると、「あなたの症状にこの薬は合ってないので、もう一度出し直してもらってください」なんて言われるんじゃないかとすら考える。
最後のはさすがに妄想だろうけど。

そして何より、薬局内の他のお客さんに、病名を知られるのが嫌だ。
別に隠したいようなものでもないんだけど、ご近所さんに「あそこのオトーサンは、扁桃炎と外耳炎とアレルギー性鼻炎に、何かよくわからない症状まである」なんて知られる必要もない。
病名なんてものはプライバシーの最たるものだと思うんだけど、それを窓口で問い質すなんて、無頓着に過ぎやしないか、なんて思う。

できれば、調剤薬局は、窓口で「処方箋からの〜病名当てクイズ!」なんてやってないで、薬の説明と服用時の注意程度に止めておいてほしい、と思うのだ。

ちなみに、「風邪ですか」の質問には「まあそんなもんです」と答えておきました。まあ、あながち間違ってないしね。



※追記
薬剤師さんが病名を聞くのは、過誤の防止やその他ちゃんとした理由があるようです。
ただこの辺り、非常に煩わしいので、窓口で説明しなくてすむシステムができないかなー、なんて思ったり。

泥沼つけ麺と謎の肉

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お昼ご飯どき、何を食べようかと思ってフラフラしてたところに、何となく見かけたつけ麺屋にふらっと入ってしまった。
特にラーメンやつけ麺を食べたい気分でもなかったし、それどころか、重たいものは避けたいなと思ってたくらいなので、自分でも何で入ったのか分からないんだけど、とにかくつけ麺屋に入ってしまった。

入ってしまったからには注文せねばならない。面倒なので一番のお勧めらしい「辛口つけ麺」を頼む。メニューを見ると魚粉系のスープのお店のようだ。

「麺の量は…大中小ありますけど…」

気だるそうな店員さんに言われてメニューを見ると、同じ値段で麺の量が選べる系の店のようだ。
面倒なので何も考えず「中」を選ぶ。

「辛さは…三段階ありますけど…」

なかなか選択肢から解放してくれない系の店でもある。

「え、と。じゃ2で」

ここまで無難、中庸、守りの路線を貫く僕。

注文を終えて、店内を見渡してみる。

カウンターがあって、厨房のなかがよく見渡せる。
いかにも今時のラーメン屋らしく、店員さんはみんな、黒いTシャツの腰に前掛けを締め、頭にタオルを締めている。威勢のいい卸売市場スタイルだ。

店員さんは5人。
一人は大きな鍋で麺を茹でている。暑さで疲れてるのが目に見える。
一人はお玉で、スープを混ぜては引き上げ、混ぜては引き上げしてる。あまり行動に意味がない。
一人は死んだような目で、何かの塊をひたすら切っている。何となくチャーシューらしい何かだと分かるけど、切り屑にまみれてなんだかよく分からなくなってる。その何やらな塊に、ロボットのように包丁を入れている。怖い。
一人は、流し台の三角コーナーから生ゴミを拾い集めてゴミ箱に捨ててる。汚ない。かなり嫌だ。
そしてもう一人は、僕にいくつもの選択を迫ったホールのお姉さんだ。気だるそうだ。

全体的に活気に乏しい。何だか陰鬱でのっそりもったりしている。
卸売市場スタイルからも「威勢」は伝わってこず、ひたすら労働の倦怠感ばかりが伝わってくる。「収容所」「タコ部屋」「強制労働」といった言葉が思い浮かぶ。

見てると三角コーナーの人が、さっきゴミを捨てた手で、タッパーからピンク色の水に浸された全く正体の分からない物体を取り出している。
「あれが僕のつけ麺とは無関係な何かでありますように」
割と真剣に祈る。

そのうち、暑そうに麺を茹でてた人が、麺を引き上げ、無造作に掴み、丼にバサっといれる。スープを無意味に上げ下げしてた人が、奥の方でちょこちょこと動いてスープを作る。

「お待たせしました」

出てきたスープには、鰹の粉と唐辛子が山のように盛られている。そいつらは海底から隆起したようにスープの表面を覆っている。魚粉が唐辛子粉の間に沈み込んでいて、何だか太平洋プレートの境界線みたくなっている。

食べてみる。
意外にも割と食べられる。
食べられるが、食べる側から魚粉と唐辛子が大量にスープに雪崩れ込み、攪拌される。
あっという間にスープが泥のようになる。
頭のなかにミキサー車のビジュアルがチラつく。

泥沼の中から、塊が発掘される。
塊の人が、死んだような目でひたすら黙々と切っていた例の塊だ。食べてみると果たしてチャーシューだった。

そのうち唐辛子がスープに混ざりだす。
辛い。
この唐辛子はスープに馴染もうとせず、旨味に貢献しようとせず、純粋な辛さだけを食事のシーンに提供していた。なにやら冷たい汗が吹き出てきた。

そこから数分間、僕は泥の中に機械的に麺を突っ込み、機械的に引き上げ、機械的に口元に持ってゆく作業を繰り返した。

まあ、この店に言いたいことはいろいろあるけど、取り敢えず、オープンキッチンはやめた方がいいんじゃないかな?

鉄道博物館に行く


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大宮の鉄道博物館に行ってみた。
前身となる秋葉原交通博物館には何度か足を運んだことがあって、蒸気機関車0系新幹線のお顔がお迎えしてくれる入口とか、なんだか古めかしい建物とか、びっくりするほどレトロな食堂とかが何だか好きだったし、閉館するときにはもっと足を運べば良かったな、と思ったくらいなので、後継施設の鉄道博物館にもいつか行こう行こうと思ってたんだけど、何しろ僕の住んでる千葉からは電車で二時間コースだし、遠くて足が向かなかった。
開館してから七年目にして漸く足が向いた。交通博物館の閉館の時には、特別公開の万世橋駅をあどけない顔で眺めてた息子も、すっかり図体のデカいお兄ちゃんだ。

千葉から大宮まで、自動車で移動。
電車に乗るのが面倒だな、と思ってしまうあたり、おじさんになったなあ、と感じる。あるいは、地方都市在住が染み付いてしまったというべきかも知れない。
首都高デビューの奥さんの運転で、ちょっぴり危なっかしく埼玉に辿り着く。

「何だか埼玉って、平坦でぺったりしてるね」
と第一印象を口にすると、すかさず、日本一平坦な千葉県民がそれを言うかと突っ込まれる。

博物館の前に、お昼が来たので、そのあたりで見つけた回転寿司屋に入る。

「埼玉みたいな海がないところで寿司ってどうなの?」
奥さんが言う。

「埼玉って海がないんだ。へえ。そんな県もあるんだ。」
娘が言う。

千葉県民は総じて埼玉に失礼なのである。

ちなみに寿司はネタが新鮮でやたら美味しかった。きっと、最近は埼玉にも海ができたんだろう。


鉄道博物館は、大きくて、綺麗で、整ってて、ピカピカしてたんだけど、何だか思ってた感じと違うなあ、というのが僕の偽らざる感想。
カビが生えてそうな模型から漂ってくる、よくわからない迫力とか愛おしさとか。そういうのが欲しい。
結局僕は、交通博物館の、古ぼけてて、垢抜けなくて、時代錯誤なところが好きだっただけなんだろう。
鉄道博物館には、埃をかぶったような模型も、レトロ過ぎる食堂もなかった。とても清潔で、分かりやすくて、親切だった。

思えば、秋葉原の風景も、当時と比べると随分変わった。当時あたりから、胡散臭いパーツ屋もホビー屋も少なくなった。今では電化製品の店すらなくなりつつある。

こうやって時代は過ぎ行くんだなあ、なんて思った秋の始まりなのでした。


小蝿と闘う

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 ちょっと油断した隙に、台所に小蝿を集らせてしまった。普通の蝿の10分の1くらいのサイズのやつ。
 食べ物を扱ってるところに蝿が飛んでるというのは何だか不潔だし、だいいち目の前をチラチラ飛ばれるのは鬱陶しい。
 
 そんな折、薬局に行った時にふと、小蝿取りの罠が目に止まったので、これだと思って買ってみた。
 ポット状の容器に、ジェル状の餌が入ってて、おびき寄せるやつ。たぶん餌がネバネバしてて、そこに止まったが最後、動けなくなるって寸法だろう。
 僕は、あの忌まわしい小蝿共を一掃してくれようと、ほくそ笑みながら帰ったものである。
 
 帰宅して早速、箱を開けてポットを取り出す。封を開けた瞬間、何とも言いようのない臭いが漂ってきた。
 
 蜂蜜を何倍にも何倍にも煮詰めて濃縮したような臭い。熟した果物が木から落ちて、土の上でぐずぐずと腐りかけてるような臭い。甘いことには間違いないけど、爽やかさとは程遠い、度を超えた甘さ。過熟の臭いであり、腐敗の臭いである。
 
 ハッキリ言って、人間には不快な臭いである。
 
 「こんなもの置いてたら蝿が集るじゃないか!」
 
 僕は憤りを覚えたが、集って良いのだ。
 
 さて、僕はその異臭を発する物体を台所の隅に置き、小蝿どもを罠にかけ殲滅してくれんと、悪魔のような心持ちで一晩過ごした。
 きっと、一晩待つだけでポットの中にはおびただしい小蝿の山が出来てることであろう。ふふふ、と、期待で胸を膨らませた。
 
 しかしだ。
 一晩待とうが二晩待とうが、一向に小蝿はポットに入ってくれぬ。ポットは依然腐ったフルーツのような臭いを発してるのに、蝿はポットに入ってくれない。
 
 これでは、嗅ぎ損ではないか。
 僕は再び、怒りに身を投じた。
 
 だがその翌朝、ついに絶命した小蝿を見つけたのである。
 
 蝿取りポットの中にではなく、その横に置いていた、子供らの歯列矯正器具の洗浄槽の中に。
 
 仕事をしたのは、強烈な臭いを放つ蝿取り罠ではなく、無臭の洗浄液だった。
 
 「まあ……大騒ぎして引っ掻き回すけど、結局何もしない奴っているよな……。」
 
 僕はそう思いながら、生暖かい目で蝿取りポットを眺めるのだった。
 

 

部分入れ歯用 ポリデント 108錠

部分入れ歯用 ポリデント 108錠

 

 

 

 

ジバニャンとドラえもんの似てるところ

 妖怪ウォッチが楽しい。

 巷の小学生に大人気の妖怪ウォッチだけど、我が家では僕が一番やっている。

 「妖怪ウォッチ2本家」のプレイ時間を見ると、子供たちがそれぞれ10時間くらいなのに対して、僕が30時間くらいプレイしている。3倍のプレイ時間だ。シャアもびっくりだ。子供たちは時間を決めてプレイしなければならないのに大人はやり放題だざまあみろ。

 

 妖怪ウォッチの魅力については、いろいろ語りたいところがあるんだけど、お供妖怪のジバニャンがかわいいってのもその一つ。

 

 のんきでだらしなくてちょっとわがままなジバニャン

 でもバトルでは一所懸命にひゃくれつ肉球を打ち込む健気なジバニャン

 ジバニャンかわいいよジバニャン

 

 そんで、ジバニャンがあまりかわいいので、描いてみました。

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  なんか違う。

 

 なんかこう、惜しいところまでいってるような気もするんだけど、何かが決定的に違う。どこがどうって言えないけど違う。なんだかプリチーじゃない。

 

 正解を見たら、すぐに分かりました。

 

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 そうだそうだ。目の位置だ。

 目を毛色の分け目にかかる位置に描くのが正解なんだ。ああすっきり。

 

 

 でも、この間違いって、すごいデジャブな感じがして、いったいなんだろうと考えてみたら、これだった。

 

 

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 おじいちゃんが描いた、ちょっと惜しいドラえもん

 

 以上になります。

金太郎は何故中途半端か

 

 金太郎という昔話があることは、誰もが知ってるんだろうけど、どんなストーリーだったかと聞かれると困る人は意外と多そうだ。

 前掛けをした金太郎が熊と相撲を取るのは覚えてるんだけど…っていう人も少なくないように思う。
 
 これが桃太郎や浦島太郎であれば、たぶん、多くの人がストーリーを最後まで説明できると思う。昔話における「太郎三部作」(いま作った)でありながら、この違いはどこにあるのか。
 簡単だ、金太郎のストーリーは中途半端なのだ。
 
 金太郎のあらすじを説明すると、こうなる。
 
「山奥に母親と二人で暮らす金太郎という若者がいました。金太郎は熊と相撲を取って勝つくらい力持ちでした。ある日、噂を聞いたお侍さんがやってきて、金太郎を都に連れて行きました。金太郎は偉いお侍さんになりました。」
 
 終わり。
 
 思わず、「…で?」と言いたくなる。
 
 率直に言って、この話で辛うじて面白いのは「熊と相撲を取って勝った」ところくらいなもんだ。さっき、「熊と相撲を取るくらいしか覚えてない」と書いたけど、無理はない。だって、熊と相撲を取るのがクライマックスのほぼ全てなのだから。
 
 しかし。ここでよくよく物語の細部を見てみたい。
 実は、金太郎の話の端々からは、壮大な物語の片鱗が垣間見える。本当は、金太郎はもっと長い話になる予定だったんじゃないか。
 
 まず導入の「山奥に母親と二人で暮らす金太郎という若者がいました」というところ。
 金太郎が何故、山奥に母親と二人暮らしなのかについて、伝承の中にはこう伝えるものがある。
 つまり、金太郎はやんごとなき身分の生まれだったが、父親が政敵に追い落とされ、追われることになったため、母親と二人で山奥に隠れ住んでいる、というものだ(異説もあります)。
 「高貴な生まれの者が、卑しい身分に身を奴してる」というのは、まさに物語にありがちな黄金パターンだ。
 
 そして、「熊と相撲を取って勝った」ことからは、主人公が超能力者であることが示唆されている。人ならぬ怪力の持ち主、金太郎。それは「熊」という好敵手と比較することによって、いかんなく描写されている。
 
 つまり、金太郎の本来のストーリーはこうだ。
 抑圧された毎日を送る金太郎、彼には生まれ備わった怪力という超能力があった。熊とのバトルでその力を否応無く見せつける金太郎。そんなある日、彼は都から来たお侍さんから、自らの生まれと宿命を知らされる。どん底からの逆転。ライバルとの競争。成り上がり。やがてくる、父親を死に追いやった宿敵との対決……。
 
 しかし、昔話の金太郎にはそれらの大半は描かれていない。
 
 何故か。
 簡単だ。
 
 不人気で打ち切られたのだ。
 
 本当は、序章にあたる「山奥編」が「お侍さんがやってきて、都に連れて行った」ことで終わり、次に「都編」が始まる予定だった。都でいけすかないライバルと戦う予定だった。かわいいヒロインとボーイミーツガールする予定だった。
しかし、それらは語られることはなく、残酷にも打ち切られたのである。
 
 きっと、序盤の見せ場である、「熊とのバトル」がいまいち盛り上がらなかったのだろう。
 「いまどき相撲てwww」みたいな意見もあったんじゃないかと思う。
 金太郎の「怪力」という能力も、ありきたりでパッとしない。例えばこれが、「全身がゴムで出来ててどこまでも手足が伸びる」って事にしておけば話も広がり、バトルも面白くなったはずだ。
 ついでに金太郎のビジュアルも悪かった。オカッパで前掛けってのはアバンギャルド過ぎた。「ダサかっこいい」を狙ったのだが、「ダサい」ままで打ち切られてしまった。
 
 ラストの「金太郎は偉いお侍さんになりました」というのも、いかにも打ち切りらしい。
 きっと、作者は前の週に突然打ち切りを告げられたのだろう。ページ数がカツカツな中、なんとか「そして10年後…」というところに繋げて体裁を保った形である。
 
 ちなみに、金太郎の連載が続いていればどうなってたか。
 たぶん、都に連れて来られた理由は、都を脅かす謎の外敵「オニ」と戦うためである。そして知る「オニ」の首魁の正体。それはもちろん、政敵に追い落とされ、ニンゲンを憎むようになった金太郎の父親だ。父親とのバトルに涙ながら勝った金太郎だが、息を付く間も無く、大陸から「モウコ」の侵略を受ける。モウコとの死闘で開花する金太郎の第二の能力。勝利。世界政府の立ち上げ。そして宇宙へと。
 
 あーあ。金太郎、打ち切られなかったら名作になってたのにな。

夏休みの自由研究2014

 「自由研究にバターを作りたいんだよね。」

 娘がそう言ってきたのは8月に入ったころだった。どうやら、テレビで見てやりたくなったらしい。牛乳をシェーカーなんかに入れてたくさん振ると牛乳から乳脂肪が分離してバターができるってやつだ。いかにも子供が興味を持ちそうだ。
 
 僕は、いいね、と答えておいて、
 「ただ、単に牛乳を振ってバターができました。やった。万歳。だけで終わらせないで、もう少し何か掘り下げるともっといいんじゃない?」
と、注文してみた。
 知っている結果を出すためだけに、実験をなぞるだけでは面白くない。せっかくやるからには、条件を変えて実験して比較するとか、そういうのがあるといい。
 
 「じゃあ、色んな種類の牛乳を振ってみるってのはどうかな。」
 娘は、普通の牛乳と、低脂肪乳と、生クリームと…と挙げた。
 そうそう。そういうこと。条件を変えて比較して実験すると、きっと面白いレポートになるはずだ。
 
 「あと、豆乳も牛乳と似てるから、バターができるかも!」
 
 と、娘。
 
 「…できねえよ」
 
 と、内心で僕。
 
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 ※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 8月中旬の日曜日。500mlのペットボトルに同じ分量の材料を入れて、同じ回数づつ振って比較する、という方針を決めてスーパーに買い出しに行く。
 
 まずは牛乳。乳脂肪の割合が高めの3.7%のものを選ぶ。うちでは、1リットル100円前後の低脂肪乳ばかり買ってるのでやけに高く感じる。
 
 売り場内で一つ一つ手に取り、ラベルを見比べると、乳脂肪が4.5%も入った加工乳を見つけた。牛乳に生クリームやバターだのを溶かし込んだやつだ。人工的にクリーミーな感じのするやつ。
 バターを作るのに、バターが溶け込んだ牛乳からバターを取り出すわけだから、これは期待できるとばかりに購入。なんだか、「出来レース」という言葉がふと頭を過る。
 
 次に生クリームなんだが、探したんだけどそのスーパーには生クリームは置いてない。植物油脂のクリームしか置いてない。
 
 生クリームは牛乳を濃縮して乳脂肪の濃度を上げたものだから、たぶんバターもできやすいはずだ。結果を出せるかどうかで言えば安全牌だろう。とりあえず生クリームを振らせておけば、「結果が出た」という感触を持たせることができそうだ。子供の科学的探究心を満足させるためには、もう一軒回っても生クリームを買うのが正解だろう。
 しかし、生クリームは高い。ちょっと高い。高いのでちょっともったいない。
 
 娘に聴いてみる。
 「ちゃんとした生クリームがないみたいなんだけど、どうする?もう一軒回る?」
 娘が答える。
 「うーん。いいや、面倒くさいし。」
 
 まあ、本人がなくてもいいっていうならいいか、と引き下がる僕。
 MOTTAINAIの精神は時として科学的探究心に勝つのだ。すまん。
 ちょっと気が咎めたので、生クリームの代わりに飲むヨーグルトを買ってみた。まあ、今考えたら植物油脂のクリームを振っても良かったね。
 
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※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 さて、いよいよ実験である。
 ペットボトルに200mlづつ材料を入れて、蓋をしめて、娘と二人でおもむろに振る。
 
 100回
 何かができる気配は全くない。
 
 200回
 まだまだ何も浮かんでこない。
 
 300回
 変化の兆候すらない。
 
 このあたりで既に腕がだるくなってくる。
 「これ、もっと振らなきゃ駄目かな。」
 「駄目。振って。」
 
 500回、600回、700回…1000回。
 
 腕が吊りそうになってくる。
 
 「父ちゃんがんばれ」
 「お前も振れよ!」
 「むりー」
 「無理じゃねえよ。むしろお前が振れ。」
 「むりー」
 
 1500回くらいで、ようやく、牛乳と加工乳の上の方に何やらモロモロした塊ができてるのに気付く。
 
 「できてる!」
 「できてる!じゃねえよ。お前も頑張って振れよ!」
 「それはむりー」
 
 2000回振ったところで、僕も「むりー」になった。もっと振るともっとちゃんとしたバターが出来るのかもしれないけど、正直、飽きた。だいいち本人も振らないのに僕だけが振るのは理不尽だ。
 
 結局、牛乳と加工乳にバターらしき塊ができてた。
 飲むヨーグルトにもなにかポツポツとした塊ができてたんだけど、それがバターなのか他の何かなのかは食べても分からず仕舞い。飲むヨーグルトの乳脂肪分は案外高かったから、ひょっとするとバターかもしれない。
 
 なにより今回一番のご苦労さんで賞は、2000回も豆乳を振ったこと。結果が出ないと分かり切ってるものを何故振らなければならないのか。いっそ振ったことにしようかとすら思ったくらいだ。
 ちなみに豆乳はとにかくものすごく泡立ちました。例えるとあれ。お洒落フレンチの前菜の横に添えられてる気取った泡のソースみたいな感じ。
 
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 ※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 そして、夏休みの最終日。
 娘は何とか結果を紙にまとめて無事、自由研究を終わらせた。実験したらすぐにまとめろよと言ったのに、最後の最後まで寝かしておくのがいかにもうちの子だ。
 
 提出物を見せて貰ったら、表を作ったりして、案外器用に纏めている。まずまず及第点じゃないかな、と思う。
 
 でもね。感想として「振るのが大変でした」というのは間違いだ。振ったのはほとんど僕なのだとこの場で言っておく。