鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

古本屋で小泉今日子のサイン本を買った話

 私の家には小泉今日子のサイン本がある。それも小泉今日子にまったく関係のなさそうな絵本だ。

 

 15年くらい前の、確か暖かくて晴れた日だったと記憶している。

 当時は、長男が生まれてまだ間もない時期で、巣鴨に住んでいて、よく池袋に遊びに行っていた。その本は、サンシャイン通りから少し脇に入ったところの古本屋の店頭のワゴンに置いてあった。「おふろ」という絵本だ。

 

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 この本は私の実家にあって、小さいころよく読んだ本だ。

 主人公とお父さんがお母さんに急かされてお風呂に入るという単純な内容なのだけど、ページに切れ込みが入っていて、ページの上下が別々にめくれるという仕掛け絵本になっている。お風呂に入るときと出るときに、上半身と下半身の衣服を1枚ずつ脱がしたり、逆にパジャマを着せたりするといった趣向だ。

 ページをめくったあと、お父さんが後ろ手にお酒を隠し持ってることが分かったりして、気の利いた遊び心があるのも楽しい。

 兄弟で何度も読んで、遊んで、今やページはボロボロに破れて取れかかってる。文字通り擦り切れるくらい読んだのだ。

 

 それが古本屋のワゴンに何気なく置いてあった。ボロボロになった実家のほんと違ってかなり保存状態も良かった。

 うわあ、これうちにあったなあ、よく読んだなあと思いながら手に取った。表紙をめくったすぐ裏に、落書きみたいなものが目についた。

 そこにはピンクのクレヨンらしき字で、日付とサインのようなものが書いてあり、サインのほうはよく見ると「kyoko2izumi」と書いてあるのがわかった。

 kyoko2izumi……キョーコ2イズミ……キョー【ココ】イズミ……小泉今日子

 私はその本をレジに持って行った。

 

 この話はこれでおしまいだ。

 それが本当に小泉今日子のサインなのかも分からないし、本物だとして、なぜ「おふろ」というおおよそ無関係そうな本の表紙の裏という不可解な場所に、それもクレヨンで書かれているのかも分からない。

 調べて分かったのは、小泉今日子が「kyoko2izumi」というサインを使っていた時期があったのはどうやら本当らしいということと、一見すると字体も似てるらしい、ということだ。

 そして、それが贋物だとしていかにも本物っぽいサインを、絵本の裏表紙というヘンテコな場所に、日付入りで書いて、その本を丁寧に取っておくかなあ……という気もする。だから、これは本物だと思うことにしている。そのほうがちょっと気持ちが楽しいからだ。

 

 その後、長男に続いて、長女、次男と都合3人の子供ができて、それぞれ「おふろ」を読んだ。最初は大人の本棚にしまっていたが、結局、子供たちの絵本の山の一部になってしまった。自分が好きだった本は子供たちにも読ませたかったし、何より私は別に小泉今日子のファンではないからだ。

 残念なことのか、幸いなことのか、私の子供たちはボロボロになるまで「おふろ」を読まなかったので、小泉今日子のサインはちょっとだけくたびれているものの、今でもきちんと残っている。

 

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