鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

夏休みの自由研究2014

 「自由研究にバターを作りたいんだよね。」

 娘がそう言ってきたのは8月に入ったころだった。どうやら、テレビで見てやりたくなったらしい。牛乳をシェーカーなんかに入れてたくさん振ると牛乳から乳脂肪が分離してバターができるってやつだ。いかにも子供が興味を持ちそうだ。
 
 僕は、いいね、と答えておいて、
 「ただ、単に牛乳を振ってバターができました。やった。万歳。だけで終わらせないで、もう少し何か掘り下げるともっといいんじゃない?」
と、注文してみた。
 知っている結果を出すためだけに、実験をなぞるだけでは面白くない。せっかくやるからには、条件を変えて実験して比較するとか、そういうのがあるといい。
 
 「じゃあ、色んな種類の牛乳を振ってみるってのはどうかな。」
 娘は、普通の牛乳と、低脂肪乳と、生クリームと…と挙げた。
 そうそう。そういうこと。条件を変えて比較して実験すると、きっと面白いレポートになるはずだ。
 
 「あと、豆乳も牛乳と似てるから、バターができるかも!」
 
 と、娘。
 
 「…できねえよ」
 
 と、内心で僕。
 
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 ※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 8月中旬の日曜日。500mlのペットボトルに同じ分量の材料を入れて、同じ回数づつ振って比較する、という方針を決めてスーパーに買い出しに行く。
 
 まずは牛乳。乳脂肪の割合が高めの3.7%のものを選ぶ。うちでは、1リットル100円前後の低脂肪乳ばかり買ってるのでやけに高く感じる。
 
 売り場内で一つ一つ手に取り、ラベルを見比べると、乳脂肪が4.5%も入った加工乳を見つけた。牛乳に生クリームやバターだのを溶かし込んだやつだ。人工的にクリーミーな感じのするやつ。
 バターを作るのに、バターが溶け込んだ牛乳からバターを取り出すわけだから、これは期待できるとばかりに購入。なんだか、「出来レース」という言葉がふと頭を過る。
 
 次に生クリームなんだが、探したんだけどそのスーパーには生クリームは置いてない。植物油脂のクリームしか置いてない。
 
 生クリームは牛乳を濃縮して乳脂肪の濃度を上げたものだから、たぶんバターもできやすいはずだ。結果を出せるかどうかで言えば安全牌だろう。とりあえず生クリームを振らせておけば、「結果が出た」という感触を持たせることができそうだ。子供の科学的探究心を満足させるためには、もう一軒回っても生クリームを買うのが正解だろう。
 しかし、生クリームは高い。ちょっと高い。高いのでちょっともったいない。
 
 娘に聴いてみる。
 「ちゃんとした生クリームがないみたいなんだけど、どうする?もう一軒回る?」
 娘が答える。
 「うーん。いいや、面倒くさいし。」
 
 まあ、本人がなくてもいいっていうならいいか、と引き下がる僕。
 MOTTAINAIの精神は時として科学的探究心に勝つのだ。すまん。
 ちょっと気が咎めたので、生クリームの代わりに飲むヨーグルトを買ってみた。まあ、今考えたら植物油脂のクリームを振っても良かったね。
 
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※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 さて、いよいよ実験である。
 ペットボトルに200mlづつ材料を入れて、蓋をしめて、娘と二人でおもむろに振る。
 
 100回
 何かができる気配は全くない。
 
 200回
 まだまだ何も浮かんでこない。
 
 300回
 変化の兆候すらない。
 
 このあたりで既に腕がだるくなってくる。
 「これ、もっと振らなきゃ駄目かな。」
 「駄目。振って。」
 
 500回、600回、700回…1000回。
 
 腕が吊りそうになってくる。
 
 「父ちゃんがんばれ」
 「お前も振れよ!」
 「むりー」
 「無理じゃねえよ。むしろお前が振れ。」
 「むりー」
 
 1500回くらいで、ようやく、牛乳と加工乳の上の方に何やらモロモロした塊ができてるのに気付く。
 
 「できてる!」
 「できてる!じゃねえよ。お前も頑張って振れよ!」
 「それはむりー」
 
 2000回振ったところで、僕も「むりー」になった。もっと振るともっとちゃんとしたバターが出来るのかもしれないけど、正直、飽きた。だいいち本人も振らないのに僕だけが振るのは理不尽だ。
 
 結局、牛乳と加工乳にバターらしき塊ができてた。
 飲むヨーグルトにもなにかポツポツとした塊ができてたんだけど、それがバターなのか他の何かなのかは食べても分からず仕舞い。飲むヨーグルトの乳脂肪分は案外高かったから、ひょっとするとバターかもしれない。
 
 なにより今回一番のご苦労さんで賞は、2000回も豆乳を振ったこと。結果が出ないと分かり切ってるものを何故振らなければならないのか。いっそ振ったことにしようかとすら思ったくらいだ。
 ちなみに豆乳はとにかくものすごく泡立ちました。例えるとあれ。お洒落フレンチの前菜の横に添えられてる気取った泡のソースみたいな感じ。
 
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 ※うっかり写真を削除してしまったので夏らしい画像をお楽しみ下さい 
 
 そして、夏休みの最終日。
 娘は何とか結果を紙にまとめて無事、自由研究を終わらせた。実験したらすぐにまとめろよと言ったのに、最後の最後まで寝かしておくのがいかにもうちの子だ。
 
 提出物を見せて貰ったら、表を作ったりして、案外器用に纏めている。まずまず及第点じゃないかな、と思う。
 
 でもね。感想として「振るのが大変でした」というのは間違いだ。振ったのはほとんど僕なのだとこの場で言っておく。