クリスタルガイザーが売ってない
娘が唐突に「明日クリスタルガイザーの空きボトルが要るんだった」と言い出した。 既に深夜10時を回ってからの話だし、クリスタルガイザー限定の話でもある。
よく考えると唐突でもなかった。1週間も前に、今度理科の実験で使うので買う必要があるという話は聞いていた。思いだしてみると
「今度クリスタルガイザーのペットボトルを持ってかなきゃいけないんだけど」
「なんでクリスタルガイザー限定なんだよ」
「何か、実験にちょうどいい大きさなんだって」
「いやそれ実験内容のほうをペットボトルに合わせろよ」
……などという話を確かにした。そして忘れた。私も、妻も、娘自身も、誰も彼も。
そして前日の深夜になって突然思い出した。せめて思い出してくれないほうがマシだった。私の心の平穏のためには。
仕方なく近所のコンビニに走った。チャリで。
…なかった。
少し向こうのコンビニに行った。チャリで。
……なかった。
だいぶ先のコンビニに行った。チャリで。
………なかった。
この辺りには深夜にクリスタルガイザーを買いたくなるようなオシャレセレブはおらんのかと思った。まあ、おらんのだろう。
こうなってくると私も意地になってくる。
近所のスーパーは営業時間外で全滅だ。でもまだドンキホーテがある。車でちょっと走った街道沿いにドンキがある。行こう。
深夜のドンキは、雑然としてて、やけに明るい曲がかかってて、いかにも地元の若者っぽい客がパラパラといて、ちょっとわくわくする。
思い出せば、出張先のホテルで夜飲むお酒を買いにゆくのは決まってドンキだった。普通のスーパーであまり見かけない感じのお菓子やつまみが置いてあるのが嬉しかった。
その昔、新入社員の頃にも独身寮の近くにドンキがあって、何もすることがない週末の夜によく店内を冷やかしたものだ。
やはり暇を持て余した同期が来てて、おう、とか話をして、お酒と普通のスーパーであまり見かけない感じのお菓子やつまみを買ったりして、そのまま同期の部屋に押しかけてそいつがPCに秘蔵していた動画コレクションを見ながら酒を飲んだりした。
私はドンキを満喫した。店内を一通り冷やかして、普通のスーパーであまり見かけない感じのランチョンミートと定価の半額くらいの味覇(ウェイパー)を買った。正直楽しかった。
クリスタルガイザーは売ってなかった。
ドンキはオシャレセレブが深夜にクリスタルガイザーを求めに行く場所じゃないのだろう。
私は「クリスタルガイザー売ってナイザー」とLINEして帰宅した。
「ヤスウリノウェイパーならあった」と言おうかとも思ったけど、特に既読もつかなかったのでやめておいた。