鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

泥沼つけ麺と謎の肉

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お昼ご飯どき、何を食べようかと思ってフラフラしてたところに、何となく見かけたつけ麺屋にふらっと入ってしまった。
特にラーメンやつけ麺を食べたい気分でもなかったし、それどころか、重たいものは避けたいなと思ってたくらいなので、自分でも何で入ったのか分からないんだけど、とにかくつけ麺屋に入ってしまった。

入ってしまったからには注文せねばならない。面倒なので一番のお勧めらしい「辛口つけ麺」を頼む。メニューを見ると魚粉系のスープのお店のようだ。

「麺の量は…大中小ありますけど…」

気だるそうな店員さんに言われてメニューを見ると、同じ値段で麺の量が選べる系の店のようだ。
面倒なので何も考えず「中」を選ぶ。

「辛さは…三段階ありますけど…」

なかなか選択肢から解放してくれない系の店でもある。

「え、と。じゃ2で」

ここまで無難、中庸、守りの路線を貫く僕。

注文を終えて、店内を見渡してみる。

カウンターがあって、厨房のなかがよく見渡せる。
いかにも今時のラーメン屋らしく、店員さんはみんな、黒いTシャツの腰に前掛けを締め、頭にタオルを締めている。威勢のいい卸売市場スタイルだ。

店員さんは5人。
一人は大きな鍋で麺を茹でている。暑さで疲れてるのが目に見える。
一人はお玉で、スープを混ぜては引き上げ、混ぜては引き上げしてる。あまり行動に意味がない。
一人は死んだような目で、何かの塊をひたすら切っている。何となくチャーシューらしい何かだと分かるけど、切り屑にまみれてなんだかよく分からなくなってる。その何やらな塊に、ロボットのように包丁を入れている。怖い。
一人は、流し台の三角コーナーから生ゴミを拾い集めてゴミ箱に捨ててる。汚ない。かなり嫌だ。
そしてもう一人は、僕にいくつもの選択を迫ったホールのお姉さんだ。気だるそうだ。

全体的に活気に乏しい。何だか陰鬱でのっそりもったりしている。
卸売市場スタイルからも「威勢」は伝わってこず、ひたすら労働の倦怠感ばかりが伝わってくる。「収容所」「タコ部屋」「強制労働」といった言葉が思い浮かぶ。

見てると三角コーナーの人が、さっきゴミを捨てた手で、タッパーからピンク色の水に浸された全く正体の分からない物体を取り出している。
「あれが僕のつけ麺とは無関係な何かでありますように」
割と真剣に祈る。

そのうち、暑そうに麺を茹でてた人が、麺を引き上げ、無造作に掴み、丼にバサっといれる。スープを無意味に上げ下げしてた人が、奥の方でちょこちょこと動いてスープを作る。

「お待たせしました」

出てきたスープには、鰹の粉と唐辛子が山のように盛られている。そいつらは海底から隆起したようにスープの表面を覆っている。魚粉が唐辛子粉の間に沈み込んでいて、何だか太平洋プレートの境界線みたくなっている。

食べてみる。
意外にも割と食べられる。
食べられるが、食べる側から魚粉と唐辛子が大量にスープに雪崩れ込み、攪拌される。
あっという間にスープが泥のようになる。
頭のなかにミキサー車のビジュアルがチラつく。

泥沼の中から、塊が発掘される。
塊の人が、死んだような目でひたすら黙々と切っていた例の塊だ。食べてみると果たしてチャーシューだった。

そのうち唐辛子がスープに混ざりだす。
辛い。
この唐辛子はスープに馴染もうとせず、旨味に貢献しようとせず、純粋な辛さだけを食事のシーンに提供していた。なにやら冷たい汗が吹き出てきた。

そこから数分間、僕は泥の中に機械的に麺を突っ込み、機械的に引き上げ、機械的に口元に持ってゆく作業を繰り返した。

まあ、この店に言いたいことはいろいろあるけど、取り敢えず、オープンキッチンはやめた方がいいんじゃないかな?