読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

水槽が腐海に沈む

毎日のこと
f:id:hananekotei:20150222230517j:plain
私の家には、金魚の水槽がある。

子供たちが幼稚園のころに、夏祭りの金魚すくいで取ってきたのが最初だったのだけど、それから何度も代替わりを重ねながら今に至っている。今いるのは7センチくらいのが二匹と、5センチくらいのが一匹。

金魚の水槽には、浄化フィルタの付いた空気ポンプを入れてるんだけど、半年以上もフィルタを取り替えるのを忘れていた。むしろ、金魚の水槽自体の存在を忘れていた。食卓の後ろに置いていたのに全然目に留まらなかった。

半年以上もフィルタを取り替えない場合にどうなるか。
金魚の水槽が腐海になる。

ふと気付くと、おぞましき緑色の苔がびっしりと張り付き、ぬらぬらとぬめっている。奴らは恐るべき速度で繁殖し、既に水槽の前面、背面、両側面を侵食し、ついに水槽の天井に至ろうとしている。


これじゃ、いかん、と、ホームセンターに向かいました。


昔から水槽の苔を取るには、石巻貝と決まっている。

タニシによく似た石巻貝は、水槽のガラス面に張り付き、ごしごしと苔を食べてくれる。彼らが通った後は、すっかり苔がなくなって、ピカピカになる。一ヶ月もすると、水槽の全面がクリアになる。頼もしい奴なのだ。

しかし、今回の苔はなかなか手強そうである。さしもの石巻貝とて、苦戦するやも知れぬ。石巻貝だけでは足りないかも知れぬ。
そう思って私は、ホームセンターのペットコーナーの若い店員に声をかけた。

「あの。石巻貝三匹と、ヤマトヌマエビ三匹下さい。」

すると、果たして店員はこう言ったのである。

「苔っすか?」

なんということだ。ホームセンターの店員は、私の下心をお見通しなのだ。
私の、「心を込めて飼育しよう」という志ではなく、「苔を掃除するの面倒くさいから、適当に貝を放り込んで取って貰おう」というあさましき心根を知っているのだ。
私は虚を付かれ、おろおろとうろたえながら

「あ。ああ、はい。」

と答えた。

店員は、畳み掛けるように、

「苔ならこいつがお勧めっすよ。綺麗になくなりますよ。」

と、手元から何やら薬剤の小さなボトルを取り出してきた。

苔にはちゃんと駆除剤があったのだ。

石巻貝で誤魔化そうとしていた私は、無知を恥じ、いたたまれない気持ちで
「うん。また今度ね。」
とにこやかに笑って会計を済ませるのだった。

そんな訳で、現在、私の家の水槽には、三匹の金魚、三匹の石巻貝、三匹のヌマエビが共生している。

石巻貝はせっせと苔を食べているが、「腹が減らなければ別に食べなくて良い」という態度を崩さず、作業は遅々としてすすまない。
ヌマエビに至っては、早々に物陰に引きこもり、全く姿を現そうとしない。

私は、依然として緑色の水槽を眺めながら、苔が綺麗になくなるという魔法のような薬剤を買えばよかったかな、などと思うのであった。