葛西のマグロを確かめに行く
葛西臨海水族園といえば、マグロの大型水槽だ。
大きな円筒形の水槽を、マグロやカツオがぐるぐると泳ぎ回る姿はなかなか壮観であった。
「で、あった。」と過去形なのは、そのマグロが昨年末、大量に死んだからである。
理由はいまいちハッキリしないのだが、大量に死んだ。一気に150匹以上死んだ。
何でも、死んだマグロの骨を解剖すると骨が折れていたとか、未知のウィルスが発見されたとか聞くが、いまいち理由は分からないらしい。奇妙な話である。
ともかく、今葛西にはマグロはほとんどいない。
大水槽が閑散としてるらしい。
これは行くしかない。
というわけで、日曜日、子供を連れて出かけることになった。
葛西臨海公園は、その名の通り、海に面した公園で、とても広い。広場があったり、バーベキュー施設があったり、でっかい観覧車があったりする。
水族館は、葛西臨海公園の駅を降りて、真っ直ぐ前に進んで、左手の方にある。
今日も駅前の広場から海に向かって真っ直ぐ進み、水族館の門に差し掛かったところに、看板が置いてあった。
「昨年12月から、マグロ類の死亡が続き、展示数が大幅に減少しています」
残念なことである。
マグロの水槽はこの水族館の目玉だったのだ。水族館にとっては大きな痛手だろう。その苦労は察するに余りある。
と、そこでふと横に目をやると、
「こちら葛西まぐろ村」
ああ。なんというタイミングの悪さ。
まぐろ村の真っ最中にマグロが消えてしまったわけだ。なむなむ。
水族館の中は、だいたいいつもとそんなに変わらない人の入りだった。
中型や小型の水槽の前には、いつも通りの人集りがしていて、いつも通りカップルがイチャイチャしており、いつも通り子供達が何かのメモをとっており、いつも通り釣り好きおじさんが薀蓄を語ってる。
ただ、マグロだけがいない。
いや、大水槽には大絶滅を生き延びた3匹のマグロが残されていた。
選ばれしサバイバーというべき3匹は、いつもと違ったガランとした水槽の中で、さみしげに、悠々と泳ぎ回っていた。
そして、館内の奥の方では、マグロがテーマの特設展が展示されていた。
マグロと人との関わり合いをテーマとした展示のようだ。
魚河岸でのマグロの捌き方なんてのも紹介されている。
取れたマグロが市場に運ばれるまでの様子や、美味しい食べ方、世界のツナ缶なんてのも展示されている。
どうやら、これは「食文化としてのマグロ」がテーマのようである。
ふと、ここで、水槽内のマグロの大量消滅の原因について、あらぬ想像をしてしまう。
きっと、ここまでやって来た誰しもの脳裏に同じ考えが浮かんだんじゃないかと思うのだが、あえてここでは言うまい。
決して、口にするまい。
食べたんじゃないだろうな、なんて、口が裂けても言えないのだ。