シュラスコ食べたい
ワールドカップ開催の関係で、開催国のブラジルってどんな国かという話題をよく目にするようになった。
その中で、シュラスコが紹介されていたんだけど、あの、煉瓦のようにでかい牛肉を串に刺し、直火の遠火でじりじりと炙り、焼けたところからナイフでこそげ取って食べる姿というのは、何やら人間の奥深くにある本能的な何かをくすぐってくる。
そもそも、「肉」「串」「火」「ナイフ」という一連のキーワードが既に反則である。
4つのキーワードの全てが、「豪快」「野趣」「肉汁」といった方向に向いている。ときめかない訳がない。
これが「取れたての魚を串に刺して火であぶって、箸で取り分ける料理」だったらそれほど胸はときめかない気がする。どちらかというと、「大根おろし」「醤油」「白いごはん」方向の話になる気がする。
もっとも、ぼくはいままでシュラスコを食べたことがない。
そういえば、一度、大学生のころ、先輩に、「ふうん。君、笹塚に住んでるの。あそこシュラスコ屋さんがあるんだよね。」と言われたのが、ぼくが人生で一番シュラスコに接近した瞬間であった。
そして、その時、ぼくの脳裏には、理科の実験室にビーカーや試験管と一緒に並べられた三角フラスコが映っていた。
「食べ放題なんだよね。」という先輩の言に、私は、三角フラスコに入った蛍光グリーンの液体をラッパ飲みする己の姿を想起しながら、さほど興味のなさそうな声で「へえ。」と言った。その後、先輩からシュラスコを誘われたことはない。
この歳になるまで、私はあまりにもシュラスコに対して無関心であった。反省したい。
というわけで、俄然としてシュラスコが食べたくなったのだが、近所にシュラスコが食べられそうなブラジル料理屋は見当たらない。
自分で作るにしても、塊の牛肉を買うのはなかなか勇気がいる。ただの牛肉でも気が引けるのに、塊肉を買うなんて、清水の舞台からベースジャンプするくらいのテンションがないとなかなか出来ることではない。
それでも、シュラスコ食べたい欲が収まらない私は、シュラスコにかけるモーリョだけを作ることにした。
モーリョは、刻んだ野菜がたっぷり入ったソースだ。トマトと玉ねぎとピーマンを刻んで塩を振って、オリーブオイルと酢を混ぜた中に入れてしばらく寝かせる。簡単だ。そして、野菜たっぷりで美味しい。かけるサラダだって誰かが言ってたけど、その通りだ。
美味しいのだけど、これが本当に、モーリョの味なのかどうかは分からない。なんせ食べたことがないのだ。
そして、決定的なことにモーリョをかける牛肉がない。仕方がないので、サラダにドレッシングとしてかけた。
モーリョの中にも野菜が大量に入ってるので、サラダの上にサラダをかける格好となってしまった。
釈然としない。シュラスコ食べたい。