鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

トルコでビールを買う話

トルコに行ってきた。

 

何でこんな中途半端な時期にトルコなのかというと、説明が長くなるのだが、まあ色んなことが一区切りしたので久しぶりに家族旅行でも行こうかといったところである。

盆暮れ正月でもないのに家族旅行して、しかも温泉とかでなくいきなりトルコに行くあたり、我ながらなかなか素晴らしい。

 

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結論としてトルコ旅行は素晴らしかった。人生初のイスラム圏だったし、イスラム文化の豊かさの片鱗に触れ、少なからぬカルチャーショックを受けたことは大きな糧になったと思う。多少、無理して仕事を休んで良かった。

 

正直なところ、行く前のトルコはなんちゃってイスラム圏だと思ってた。職場近所のトルコレストランや、屋台のケバブ屋は普通にビールを出してるし、何ならトルコ特産の「ラク」という蒸留酒もある。水で割ると白く濁る独特のやつだ。アニスの強烈な香りがして慣れないと実に飲みにくい。アルコール度数も高い。あんな強烈な個性を持った酒を生み出した国はさぞかし呑兵衛ばかりいるんだろうと勝手に思ってた。

 

トルコが案外ちゃんとしたイスラム圏だというのは、午前5時にトルコのホテルに着いてすぐに分かった。

泊まったホテルはイスタンブールの旧市街のど真ん中にあって、近所に3つ立派なドームと塔を持ったモスクがある。そのモスクが夜も明けきらない時間に、それぞれのスピーカーから、ものすごい大音声でアラーへの祈りを呼びかける朗々とした詩を流すのだ。

これが「アザーン」と呼ばれるものだというのは予備知識として知っていた。しかし、こんな未明の時間帯に、これだけの大音声で流すとは知らなかった。

日本の田舎にいくと、たまに早朝に拡声器でラジオ体操や役所からのお知らせを流すところがあるが、あれよりも早い時間帯に、あれよりも大音声で、市内のあちこちから微妙な時間差をもって次々と流れてくる。これが毎日5回繰り返される。

最初は早朝に叩き起こされることに辟易していた。しかしこれも3日も経つと当たり前の光景になってくる。早朝叩き起こされるならば早く寝ればいいわけだし、田舎の拡声器より風情がある。何より時間を知るのに便利だ。夜のアザーンが鳴ったから寝るか、といった具合である。

 

さて、お酒の話だ。

トルコがなんちゃってイスラム圏だと思っていた私は、市内のどこでも普通にビールが買えると思ってた。

甘かった。

ホテルの近くにはコンビニくらいの規模の個人商店がいくつもあり、ちょっとしたスーパーも数件ある。コンビニ的な商店にはお菓子もドリンクもパンも売ってる。スーパーには日用雑貨や野菜、加工肉、チーズが並んでる。

しかし、そのどこにもアルコールは並んでない。

 

私はビールを求めて片っ端から商店とスーパーを巡ったのだが、どこにも置いてない。

代わりにやたらとエナジードリンクが置いてある。ひどい場合は冷蔵棚まるごとモンスターエナジーだったりする。

たぶんトルコ人はカフェインでハイになるのだ。しかし、日本人である私にとってエナジードリンクは寝不足で疲れきったなか仕事するイメージしかない。せっかくの休暇にエナジードリンクは勘弁願いたい。

 

そんなことを思いながらイスタンブールの下町を巡っていた私だが、ついに、とても狭く、薄暗く、ひっそりとした佇まいのお店の奥にビールを発見したのだ。エウレーカ。ついにやったぜ。

 

私はいそいそと棚からビールを取り出し、レジに持っていった。

薄暗い店の薄暗い目をした店員は、レジに置かれたビールを一瞥して、私の頭からつま先までジロリと眺めて、無言で顎をしゃくり「ほら。わかるだろ?」という仕草をした。

私が恐る恐る財布から10トルコリラ札を取り出しレジに置くと、薄暗い目をした店員は無言でそれを受け取り、だまって2トルコリラをカウンターに置いた。

 

どう考えてもヤバイ取引だ。

 

そして店員は中身が見えない真っ黒なレジ袋を取り出し、ビール1本を厳重にくるみ、私に渡してきた。終始無言で。薄暗い目で。

 

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私はこの「中身の見えない黒いレジ袋」に強烈な既視感を覚えた。

知ってるのだ。

日本でも、特定の業態のお店が、同じように薄暗い店内で、薄暗い目をした店員が、真っ黒いレジ袋に包んで商品を渡すことを知ってるのだ。

 

そう。

 

エロビデオ屋である。

 

私は黒いレジ袋に包まれた商品をそそくさとカバンに入れ「トルコのビールはエロビデオだったんだなぁ…」と思いながらホテルに戻るのであった。