鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

美味しくない中華料理屋のはなし

 近所の中華料理屋は何を食べてもだいたい美味しくない。

 何が美味しくないのか、理由はいろいろあるんだけど、最たる理由は香辛料の使い方に癖があることにある。だいたい何にでも八角が入ってる。煮豚にも八角カシューナッツ炒めにも八角、八宝菜にも八角。味付き煮たまごにも八角。なんにでも八角

 八角はただでさえ癖の強い香辛料なので、ほんの少し入れただけでも取り返しのつかない風味が付く。それをこの店はためらいなく投入する。
 どれくらいためらいがないかというと、料理に八角の大粒のかけらが入ってたりするくらいだ。噛むとゴリッとする。八角の香りがさらに口に広がる。八角パラダイス。

 そんなわけで、最初に入った時は八角の味にげんなりして、二度と来ないだろうなと思っていた。

 しかし、しばらく経ってみると、なぜか気になってくる。あのやけくそみたいな八角の味がどうにも気になってくる。なんとなく、どれだけ美味しくなかったのか確かめてみようかな、という気分になってくる。

 結局、二度目に足を運んでしまったときも、やっぱり八角の味にげんなりする羽目になった。
 ああ、こうなることは分かってたよなあ、馬鹿だなあ、と思いながら、気が付くと三度目、四度目と足を運んでいる。おかしい。妙な八角味に禁断症状が出ているみたいだ。

 美味しくない料理というのは、案外人を惹きつけるのかも知れない。ひょっとすると、美味しくないと感じるもととなる化学物質は、脳の中の込み入ったところにある禁断症状回路をうっかり刺激してしまうのかも知れない。今でも美味しくなさを確認するかのように、たまに足を運んでいる。そして美味しくないことを確認して帰る。

 ちなみに、この店の麻婆豆腐はなぜか飛び切り美味しい。びっくりするほど辛くて、びっくりするほど美味しい。
 いちど、もしかしたら麻婆豆腐なんて、誰が作ってもこんなもんかもしれないと思って、別の中華料理屋の麻婆豆腐と食べ比べてみたんだけど、やっぱり飛び抜けて美味しい。
 もしかすると、この店の麻婆豆腐は日本一美味しいのではないかと思っていたりする。でも、美味しくないもととなる原因物質のせいで、味覚の回路が狂わされてるだけかも知れないので、自信がない。