鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

ボーナンザと交渉について

 ボーナンザというカードゲームがある。畑に豆を植えるゲームだ。

 自分の手順に手札から場に豆カードを出してゆき(要は、畑に豆を植えるイメージなわけです)、同じ種類の豆を出来るだけ数多く揃えて得点を稼ぐゲームなのだけど、カードを場に出す条件が独特だ。

 このゲーム、最初に手札として豆カードが5枚づつ配られるのだけど、手札の順番を入れ替えてはいけないという鉄則がある。
 そして、手番で場に出せるカードは、常に手札の先頭(右端)に位置するカードだけだ。いくら手札に出したいカードがあっても、先頭のカードでない限り、出すことができない。先頭のカードだけがアクティブなカードで、それ以外は、次以降に出すことができるカードが順番に並んでいるというわけである。
 例えるなら、テトリスで、画面の端の方に次に落とすことができるブロックが表示されているけど、いまこの瞬間には使えないのと同じだ。
 「次のブロック」にいま必要なブロックが表示されていても、今落とそうとしているブロックを飛ばして使うことはできない。ボーナンザのカードも同じで、先頭のカードだけが「いま使えるカード」であって、それ以外のカードは、基本的には次以降に使えるカードの予告でしかない。

 さらに、ボーナンザでは豆(カード)を植える畑(場)は2か所しか与えられていない。そして、1つの畑に複数の種類の豆を植えることは出来ない。
 そのため、手札からカードを出しているだけではあっという間に手詰まりになってしまう。何せ、豆カードの種類は8種類あるのに、使える豆の選択肢は手札の先頭にある1枚限りなのだ。

 その代わり、ボーナンザでは、交渉によって手札を交換することが認められている。
 テトリスの例で言えば、次や、次の次のブロックを他のプレイヤーのブロックと交換することができるのだ。他のプレイヤーとの交換によって次に使うべきカードを放出することで、「次に植えるべきカード」をコントロールすることができるのだ。

 他にもプレイヤー間の交渉が可能なゲームは数多いけれど、ボーナンザにおける交渉が占める割合は際立って大きい。
 他のプレイヤーに不要なカードを引き取ってもらい、自分の必要とするカードを貰わない限り、せいぜい1、2枚程度しか豆を畑に植えることはできないし、それでは得点にならないからである。
 ゲーム中は活発に交渉がなされ、手札がどんどん交換されてゆく。交渉と手札交換こそが、このゲームのほぼ全てだと言っても過言ではない。


 さて、このボーナンザなんだけど、「交渉とは何か」ということを教える教材にはぴったりなんじゃないかと思う。

 まず、ゲーム中、常に全プレイヤーが等しく困っている状況にあるため、活発な交渉が起こりやすい。
 プレイヤーはゲームに参加する以上は、半ば強制的に交渉に参加することを余儀なくされる。交渉を放棄することは、ゲームから降りて負けを認めることに他ならない。「交渉に参加しない」選択肢が取れないのだ。

 そして、プレイヤー間の利益状況が平等な交渉が起こり易い。これは、各プレイヤーにとって、公平感のある交渉が行われやすいことに繋がる。

 そもそも、交渉なんていうものは、当事者の一方と他方の交換する利益が等価値であって初めて成立するものである。定価100円の鉛筆は100円以下でしか売れないのが原則だ。

 いやいや、「次郎くんがテストの直前に鉛筆を忘れてしまったことに気付いたので、足元を見た太郎くんが100円の鉛筆を200円で売りつける。」こともあるかもしれない。

 しかし、その場合も、次郎くんは「学校を抜け出すことなく鉛筆を手に入れてテストを乗り切る」ことに200円分の価値を見出しているのだ。
 この場合、太郎くんと次郎くんの前提としている利益状況が非対称なため、一見、公平に見えない交換がされているだけであって、あくまでも、交換する利益は、当事者の両方にとって等価値なのだ。

 交渉の基本は、相手に対して「交換対象が等価値である(もしくはそれ以上である)」ことを説明することである。そしてボーナンザはそのことを自覚的に行い易い設計になっている。

 他のゲーム、例えば、モノポリーなんかだと、時として、優勢なプレイヤーが劣勢プレイヤーに対して当面の手元資金の融通を盾にして、戦略上重要な土地を召し上げるといった、パワーバランスの優劣を反映した交渉がなされることがある。
 パワーバランスで押し切る交渉は、交換対象の利益が等価値かどうかが分かりにくいし、「相手に対して等価値な提案をしている」ということを自覚しづらい。

 これに対してボーナンザの場合、前提となる利益状況がプレイヤー間で対称的なため(プレイヤー全員が等しく手札の扱いに頭を悩ませているのだ)、交渉の当事者にとって、交換対象が等価値であるかどうかが判断し易い。つまり、公平感のある交渉が行われやすい。基本に忠実な説得をしやすいのだ。

 加えて、プレイヤーはライバル(この場合、交渉外の第三者)に先んじて迅速に交渉を成立させる必要がある。
 このゲームにおける交渉は、交渉の当事者がお互いに利益となる交換を行うことで、交渉外の第三者となったプレイヤーに対してアドバンテージを得るという効果をもたらす。ボーナンザでは、状況を判断して、ライバルよりもより早くより魅力的なオファーを交渉相手に提示することが求められる。

 要するに、ボーナンザは、(1)相手に対して交換対象が等価値以上であることの説得作業を、(2)迅速に、かつ、(3)数多く提案することが求められるゲームなのだ。これは交渉とは何かの教材にはぴったりなのではないかと思うのです。

 と、あれこれ考えたけど、とても面白いゲームなので一度やってみるといいですよ。