鼻猫亭

毎日のこととかぼんやり考えたことなど

忘年会について

 世の中ではそろそろ忘年会シーズンの到来なわけですが、毎年思うのが、なぜ新年を迎えるにあたって今年という一年を忘れる必要があるのかということ。

 今年という一年の間には、楽しいことも苦しいこともいっぱいあったはずだし、覚えておきたい出来事もきっとたくさんあったはず。新年を迎えるからって、今年という一年の大切な思い出を忘れてしまってよいのでありましょうか!(拳を振り上げる)

 また、今年は失敗しちゃったなあ…っていう人も、その失敗を振り返り、翌年の成功の糧にすべきなのでありまして、それを、「いやー。何で失敗したかすっかり忘れてしまいましたわー」というのでは、いつまでたっても来年の成長は見込めないはずであります!!(拳を机に強くたたきつける)

 まあ、そうはいっても、この世知辛い世の中、この一年のことなんて丸ごと思い出したくないよ。忘れてしまいたいよ。って人も中にはいるかもしれません。

 しかし、そうだとしても、みんなで寄り集まって忘年会を開くというのは、どうも合理性に欠けるようにも思えます。だって、みんなで寄り集まったら、ぜったいに今年の話をしてしまうもの。忘れるどころか思い出してしまうじゃないですか。


 「今年は嫌なことあったよな、会社はクビになるし…」

 「そうそう、俺もさあ、女房に逃げられちまってさ…他に男ができたんだって。」

 「あー、お前のせいで思い出しちまったじゃねえか!もう!」

 「俺も思い出しちゃったよ!」



 そういうわけなので、どうしても忘年会を開催した上で今年あった嫌なことを忘れたい人は、今年の話を一切してはならないということにすれば宜しかろう。そして、今年の話をしそうになったら、罰として一杯飲むことにすれば宜しかろう。


 「今年は嫌なことあったよな、会社はクビになるし…」

 「はいアウト!今年の話はアウト。まあ飲め。」

 「あー、しまった。そうだったな、今年の話はアウトだったな。ところで、そろそろ時間は大丈夫なのか、奥さんに怒られるんじゃないのか?」

 「何だよ、離婚したこと知ってるくせに…。そうなんだよな…あいつ…他に男を作って…逃げやがって…」

 「はいアウト。今年の話ー。」

 「あ…。って、いや、なに今の、ずるくないか?」

 「へへへ、まあ飲めよ。」

 「ったく、仕方ねえなあ…。」



 「…。」

 「…。」

 「おい。何か話せよ。」

 「お前こそ何か話せよ。」

 「…ねえよ。」

 「こっちもねえよ。」

 「しかし、なんかこう…会話がないな。」

 「まあ、飲んで忘れるか。」

 「ああ、飲もう飲もう。飲んで忘れよう。」

 「…。」

 「…。」

 「…。」

 「…。」



 『すみませーん、そろそろ閉店なんですけど。』

 「あああ?なんだよぅおまえ、あした!?あしたのしごとなんてねえよ、くびになりまーしーたってんだ。」

 「ううう、よしこー。よしこー。行かないでくれ。」

 『あー。厄介だなあ。ともかく、お店はお終いですので…。』

 「おしまい!?ああ、おれァ、もうおしまいだ。でもな、わるいのは部長だぞコラ、もとはといえばあいつのしりぬぐいをなぁ…」

 「よしこー。よしこー。」

 『もしもーし、聞いてますかー。』

 「はいはい、きいてますよぅ。きけばいいんでしょ、部長のいうことはなんでもききますよーってなー」

 「よしこー。よしこー。」

 『ともかく!お店は閉めるので出て行って下さい』

 「あァ?脱げって、いいよ脱いでやるよ、ほらほらほらほら!」

 「よしこー。よしこー。(ゲロゲロゲロゲロ)」

 『わー!!おまわりさーーん!!』
 



 「おい。」

 「ああ。」

 「昨日は散々だったな。」

 「頭がガンガンするから話しかけないでくれ。ついでに思い出したくない。」

 「本当、今年一番のやっちゃった感だな。」

 「忘れたいな。」

 「忘年会…するか。」

 「ああ…忘れようぜ。忘年会で。」


 どっとはらい